2.3 パケットの必要性

TCP/IP についてお話しする前に、その基本構造を構成している技術的要請に ついて簡単な説明をしておきましょう。

2点間で通信をしようとする場合について考えましょう。最も原始的なもの としては糸電話のようなものを考えれば、その場合には相手を判別する必要 はありません。相手は予め分かっているのですから。このような通信における 回線という点に着目すれば、機能的にはこれは専用線と言われるものです。 電話のシステムも機能的には同じです。一度相手に電話が通じて、話始めれば、 相手の確認をいちいち行う必要はありません。 勿論、現在の電話は大昔の電話のように本当に専用線を確保している訳では ありませんが、機能の面では同じなのです。 このような通信方式は一般に回線交換方式と呼ばれています。 回線交換方式の利点は占有することによる品質の高さですが、それは一方では 回線の使用率という点では無駄であることも多いことを意味していますし、 2点間に専用の回線を用意しなければならないという点でも無駄が多いことは 明らかです。

回線交換の問題は突き詰めれば専用線、あるいは占有するという点にあります。 つまり、対案は共有にあることになる訳です。では、どのようにすれば共有できる のでしょうか。実は搬送路を共有するようなシステムは既に我々の回りに馴染み 深いものとして存在しています。それは郵便あるいは宅配のシステムです。 以下では、データ通信を郵便になぞらえて考えてみます。郵便で配達される 手紙に書かれた情報がデータ通信におけるデータに対応します。多くの手紙が 多地点間でやりとりされますが、郵便局の間ではそれらは同じ郵便配送車や 列車、飛行機に袋詰めされて配送されます。つまり、配送路が共有されている 訳です。このように、共有のための第一条件は情報がある小さな単位に分割 されている事です。電話では相手からの応答がある間も含めて回線は占有されて いますが、手紙や葉書で相手とやりとりする場合相手から 返事が返るまで配送路を占有している訳ではありません。データ通信において これと同じ考え方をし、通信データを適当な大きさに分割します。これを パケットと呼びます(パケットは英語で小包という意味です)。つまり、パケット 化を行う事で、多くの多地点間通信と同じ配送路を共有する訳です。 勿論、郵便が局で適宜仕訳され配送されるのと同じように、 データ通信でも局に相当する部分が必要なのですが、それが可能であるために は郵便における宛名や差出人に相当する情報が必要であることが分かります。

このような宛名や差出人名あるいは住所に相当するものはどうある べきなのかについては後に詳しく説明しますが、ここでは単純に住所(アドレス) について 考えてみましょう。我々が通常用いている住所は多数の情報を非常に短く 簡潔に表すために、階層構造を採用しています。こうした階層構造はデータ 構造では良く利用されるものですが、IPでもこうした階層構造を採用して います。但し、残念ながら現在利用されているIPv4では2階層のみの構造に なっていますが、IPv6では大幅に階層構造が採用されています。一方、 宛名や差出人名はデータ通信では言わば個体の識別に対応していますが、 日常生活で我々が使っているものと1対1対応するかと言うと少し違いが あります。一つはアドレスがある種の個体識別的役割を担っている点と、 次に説明する階層による識別方法の相違、第三に個体の認証をどうするか という点です。最後の点は少し難しい問題で、郵便でもそれほど厳格な 訳ではありません(普通の郵便ではポストに投げるだけですし、書留でも 印鑑程度です)。ここまでの段階ではアドレスについては、この程度 に留めておき、アドレスを理解する前に通信で重要な別の問題について 考えてみましょう。

通信方式と進歩
回線交換とパケット交換方式は当初においては確かに全く違う技術でしたが、 近年の進歩は両者の違いをなくしつつあります。回線を高速でスイッチする(当然、 バッファなどでその間は支える)ような考え方をとると、占有という古典的な 考え方とは異なってきます。つまり、回線が固定的にあるのではなく、仮想的な 回線へと変化してきているのです(回線自体のパケット化とも言えるかも知れません)。 専用線のデメリットがなくなれば、メリット のみが残ると考える人々も当然出て来る訳です(コストなどの問題は別です が)。TCP/IPは確かにパケット交換に基づいていますが、それを仮想的な回線交換 に載せても問題はありませんし、むしろパケットのアドレスに関する処理 の冗長な部分を大幅に少なくすることも出来ます。このように、技術の進歩が 元々は異なる技術を一つのものに融合させていくという局面は、歴史に度々 登場することです。従って、回線交換やパケット交換を固定的に見るのではなく、 その出現の必然性を基本的に理解するという事が重要なのです。



Noriyo Kanayama