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1.1 IPv6とは

IPv6 は、1992年から着手が始まり、基本的な仕様ができたのが1995年でした。この 背景には、2つの問題がありました。一つは良く知られたIPv4アドレスの枯渇です。 これはInternetの標準を策定する団体である IETF(Internet Engineering Task Force) の当時の予想で 2004年から2010年頃に枯渇が予想されていました。これは、NAT( NAPT)の普及など当時では考えられていない技術もありますが、大筋のところでは 今でも支持されていると言って良いでしょう。実際、IPv4のアドレスは約43億程度 であり、無駄も全て含んでこれだけですので、世界人口にも満たず不足は明らか なのです。また、問題の善悪は別にして、技術的にはP2Pなどの技術はプライベート ではない、本当のIPアドレスを要求する訳ですので、グローバルなIPアドレスへの 欲求は多くなりこそすれ、少なくなる筈はありません。また、同時に、IPアドレス の南北問題と呼ばれる、IPの偏在の問題もあります。下の表のように、人口に 足りないどころか、まともなサーバさえ十分に持てないと思われる状況があります (あるいは、IPによる搾取)。

IPv4アドレス国別割り当てランキング (2003年4月7日現在)
順位 CC 国名 合計IP数 割合
1 US アメリカ 1,246,274,560 66.90%
2 JP 日本 103,830,016 5.57%
3 CA カナダ 62,013,952 3.33%
4 GB イギリス 50,894,080 2.73%
5 DE ドイツ 48,699,648 2.61%
6 FR フランス 37,210,112 2.00%
7 CN 中国 30,719,744 1.65%
    中略    
169 SR スリナム 1,024 0.00%
173 BZ ベリーズ 256 0.00%
173 GD グレナダ 256 0.00%
173 NE ニジェール 256 0.00%
173 SZ スワジランド 256 0.00%
173 TO トンガ 256 0.00%
    判定不能 345,088 0.02%
    合計 1,858,318,336 100.00%

2つめの問題は、インターネットの膨張によって、ルータの経路情報が膨大に なり、それによるルータへの負荷の問題です。例えば、全体の出入り口に 近いルータは非常に多くの経路情報を抱えなければならず、必要とされるCPUや メモリ資源は増大していく一方でした。

こうした問題を背景にして、IPv6は10年近い日時をかけて議論され、現在では IPv6を議論する IETF の IPng ワーキンググループは縮小の方向で終了する ことが了解されています。

また、日本ではIPv6については技術的に非常に貢献をし、多くの議論もされている 数少ないIPv6先進国で、既に多くのプロバイダーが正式あるいは実験的にIPv6 接続を開始しています。しかしながら、残念ながらIPv6そのものについての理解は それほど進んでいないように見えますし、少なからぬ誤解もあるように思われます。

IPv6では、セキュリティが最初から完全だとか、QoS(サービス品質)がサポート されているからマルチメディア通信に最適だとか、あるいはマルチキャストが 可能になるとかの誤解があります。

セキュリティに関して言えば、IPv6では IPsecが標準実装になっているために、 セキュリティが万全だと誤解されていますが、単にIPsecが標準で利用可能という だけなのです。IPv4でもIPsecは使えるのですから、別に特に新しい訳ではあり ません。また、IPv6でファイアーウォールが不要になるかと言えば、当分は必要 だと言うのが専門家での共通の意見です。その場合、IPsecで暗号化通信をされる とファイアーウォールでチェック出来なくなりますので、却って邪魔だとすら 考えられています。

QoS(サービス品質)についてはどうでしょうか。実はこれも事情は同じで、 インターネット上で本当にQoSが可能かどうかすら議論が続いていますし、 QoSのためのヘッダ領域はありますが、それを途中経路のルータでどう扱うのか という点についても、まだ色々な議論がある始末です。

マルチキャストは放送などの点から待望されている技術ですが、これもまだ 決定的なプロトコルは提案されていません。IPv4におけるマルチキャストの 実験利用組織のMbone などでは PIM-SSM (Protocol Independent Multicast - Source Specific Multicast)が利用されるようになってきています が、これもマルチキャストアドレスの管理は別の問題とされているために、 一般にマルチキャストが実用的に利用できるようになるまでには、まだまだ多くの 研究と時間が必要であると考えられています。

以上のように、IPv6に対しては無理解と幻想の両方があるのですが、実際には IPv6は、 実験からいつの間にか通信インフラとして世界中を覆うようになった IPv4の問題をきちんと整理し、真っ当なインフラとして使えるようにしたもので あり、そういう意味で初めてインターネットを世界の通信網の中核として位置づける ものにした点に意味があるのです。その上で、そうした目的のために、 広大なIPアドレス空間があり、P2Pなどが花開く土壌が用意されているものだと 考えるべきでしょう。つまりは、それですべてが解決するようなものなのではなく、 色々なものが発展していくための、まともな基盤がようやく準備されようとしている という位置づけの方が正しいと言えます。

この割り当てというのは、IPv4ではクラスという非常に無駄な方法で当初は IPの割り当てが行われ、その次にCIDR(Classless Inter Domain Routing)に よる割り当てに改良されましたが、最初の無駄や経路情報の集約を取り返すほどに は至っていません。そういう意味で、IPv6の整然としたアドレス構造は世界的な 通信基盤を用意するという点で、新規まき直しの意味を持っています。また、 IPv6アドレスの空間は 約340 x $10^36$ (340澗: カンと読みます)という広大 な空間を持ち、アドレス構造も整理されています。そして、この広大な空間 を利用して、本当の意味での1対1の通信が可能になるのです。元々、 インターネットを古くから親しんできた人達はグローバルなIPを持つことが 常識でしたし、それがインターネットであると言っても過言ではなかったのです。 IPv6で初めて一般の人にも本来のインターネットが使えるようになるというのが、 大きな意味でしょう。勿論、これにはそれに伴う責任も、それを支える技術も 必要ですが、自由な通信が与える世界への影響が大きいことだけは確かだと 言えます。


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Noriyo Kanayama